新車から12,000km走行したJB74ジムニーシエラのミッションオイルを、高性能ギアオイルに交換した。
ミッションオイルは整備マニュアル上では無交換で良いことになっているが、新車の時から1速とRのギアが入りにくいこともあり、ミッションオイルの交換に踏み切った。
実際に交換してみると、抜いたミッションオイルは意外と汚れており、高性能ミッションオイルに交換した後は吸い込まれるようにギアが入るようになって大満足!
ミッションオイルはフィラーが狭いところにあり補充作業が大変だったが、その価値はある作業でした。
デフオイルの交換作業については、別記事でまとめてます。
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【徹底解説】JB64/74ジムニーのデフオイル交換方法まとめ
新車から14,000km走行したJB74ジムニーシエラのデフオイルをDIYで交換した。 推奨交換距離より短い14,000kmといえど、出てくるオイルはかなり鉄粉混じり!もっと早めに交換しておけば!と思 ...
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JB64/JB74ジムニーのミッションオイル推奨交換距離
ミッションやデフなどのギアオイルの交換距離は下記の通り。
通常交換時期 | シビア条件交換時期 | 備考 | |
ミッションオイル | 無交換 | 75,000km | スズキ四輪ギアオイル「75W」に適用 |
トランスファーオイル | 無交換 | 75,000km | トランスミッションオイルとトランスファオイルを共用する車両かつスズキ四輪ギアオイル「75W」使用車に適用 |
デフオイル | 40,000km | 20,000km | - |
ミッションオイルの推奨交換距離は、通常なら交換不要。シビア条件なら75,000kmだ。
今回、交換推奨距離よりかなり短い12,000kmでの交換だったが、オイルは意外と汚れていた(記事後半に画像あり)。
ちなみに、シビアコンディションとは、下記の走行条件が当てはまる(以下のHondaのHPの説明がわかりやすい)。
注意しなければいけないのは、意外と都市部の走行はシビア条件に該当すること。
まさに下記の2条件は、都市部でちょい乗りという感じの使われ方だ。
「短距離の繰り返し走行が多い(目安:8km/回)」
「低速走行が多い場合(目安:30km/h以下)」
信号の多い市街地だと1速、2速、3速をけっこう頻繁にチェンジするので、ミッションへの負荷は大きい。
シビア条件に該当しない車だけは無交換でOKなのだが、実際にそのような使われ方の車の方が少ないのかもしれない。
ギアオイル(ミッションオイル)についての基礎知識
ミッションオイルやデフオイルなど、車のギア部品に使用されるオイルはギアオイルに分類される。
両者は共用出来たり出来なかったり、オイル銘柄によって用途が異なるので、その理由についてや、ギアオイルの基礎知識について解説する。
ギアオイル(ミッションオイル)の粘度表記について
これはSAE規格(アメリカ自動車技術協会) と呼ばれる表記が採用されており、75W-80の「75W」とは低温側の粘度指数を表し、「80」は高温側の粘度指数を表している。
例えば75W-85の「75W」なら-40度から使用可能な粘度ということを表しており、数字が低いほど低温に強くなっていく。
また、75W-85の「85」は100度での粘度(下表)を表しており、数字が大きいほど硬いオイルとなる。
SAE粘度 グレード |
150,000mPa・sに達する 最高温度、℃ |
動粘度(100℃)mm2/s | |
---|---|---|---|
最低※1 | 最高 | ||
70W 75W 80W 85W 80 85 90 110 140 190 250 |
-55 -40 -26 -12 |
4.1 4.1 7.0 11.0 7.0 11.0 13.5 18.5 24.0 32.5 41.0 |
11.0 13.5 18.5 24.0 32.5 41.0 |
ちなみに、一般的なエンジンオイルの10W-30 に比べるとギアオイルの粘度はかなり数字が大きいが、これはエンジンオイルに比べてオイルが硬いわけではなく、表示体系が異なるためだ。
おおよそだが、10W-50のエンジンオイルと、75W-90のギアオイルが大体同じくらいの粘度となっている。
また、「75W-85」のように低温側/高温側の二種類の粘度が表記されるオイルをマルチグレードと呼ぶのに対し、「75W」のみ表記のオイルをシングルグレードと呼ぶ。
これはSAE規格以前から存在するグレードで、SAE規格導入後も高温側の粘度がSAE下限の80より低いためマルチグレード表記ができないオイルである(つまり、「75W」は「75W-80」より柔らかい)。
ギアオイルの用途分類について
ギアオイルには粘度分類の「SAE規格」の他に、「API規格」と呼ばれる負荷によっての用途別の分類がある。
この規格は、ギアオイルの使用用途によって、GL-1からGL-6の6段階に分けられている。
現在、GL-1,GL-2は消滅しており、GL-3以降で代替。実際に販売されているオイルとしては、ほとんどがGL-5で、GL-4は少数派、GL-3に至っては店頭では見たことがない。
【ギアオイル API規格一覧表】
API分類 | 使用箇所 |
---|---|
GL-1 | 自動車では使用されない |
GL-2 | 特殊な場合のみ使用 |
GL-3 | トランスミッション・ステアリングギア 負荷の低い緩やかなディファレンシャルギア |
GL-4 | 過酷な条件で使用されるトランスミッション・ステアリングギア・ディファレンシャルギア 高速低トルク、低速高トルクに対応 |
GL-5 | GL-4よりも過酷な条件で使用するディファレンシャルギア 高速衝撃荷重にも耐える |
GL-6 | GL-5よりも過酷な条件で使用するディファレンシャルギア フォードのみの規格で実際は使用されていない規格 |
GL-3グレードから耐極圧剤、摩耗防止剤として硫黄、りんなどの化合物を配合し、GL-3からグレードが上がるにつれて、これら極圧添加剤が多く配合されている。そのため、GL-3よりGL-4、GL-4よりGL-5のグレードのギヤオイルは、耐極圧性、摩耗防止性について性能が向上。故により過酷な高荷重、摺動力が加わる条件のギヤ、デファレンシャルギヤ(ハイポイドギヤ)においては、GL-4、GL-5等のグレードが指定されている。
ミッションオイルはデフオイルと兼用できる?
ミッションオイルとデフオイルを兼用できると、それぞれ使い回せるので無駄な余りが生じず効率的なのだが、両者で指定オイルが異なっている車種も多い(ジムニーも別オイルが指定)。
また、「GL-4指定のミッションにGL-5規格のオイルを入れるとシンクロが痛む」というのはよく聞く話だが、最近売られているオイルはGL-5がほとんどでデフ/ミッション兼用と謳われているオイルも多い。
結局のところ、両者は兼用できるの?という疑問について、解説する。
GLグレードが高いほど極圧性能が高く、デフのハイポイドギアなど高い極圧性能が求められるギアの潤滑に使われる。
一方で、極圧性能を発揮する添加剤は金属表面を腐食させてしまうので、特に腐食に真鍮製のミッションのシンクロを痛めてしまう。ミッションには高い極圧性能は必要ないので、GL-4グレードが指定されることが多い(実際、GL-5のギアオイルを入れて、ミッションが壊れた事例もある)
と、ここまでは一般論。
しかし、最近のGL-5グレードのギアオイルは、ミッションにも使うことを前提に配合開発されており、GL-5とは謳っているものの、金属への影響はGL-4レベル以下。つまり、メーカーがGL-5グレードのオイルでミッションオイル対応と謳っていれば、ミッションオイルとして使ってOKなのだ。
つまり、GL-4とかGL-5などにとらわれず、メーカーがそのオイルをどの用途に向けているのかを確認するのが重要だ。
(GLグレードの表記なく、ミッション/デフ/LSDに対応したギアオイルもある)
まとめると
ギアオイル兼用まとめ
・GLグレードが高いほど極圧性能が高い
・GL-5のギアオイルは金属、特にミッションの真鍮製シンクロへの腐食性が強いものがある
・GL-5のギアオイルでも、ミッション用と謳われているものは腐食性も考慮されているので、ミッションに入れてOK(要は、GLグレードよりオイルの用途確認が重要)
もちろん、ミッションオイル/デフオイルを兼用するなら、オイル粘度が純正指定を下回らないようにするのがベター。安易に粘度を下げると、油膜切れのリスクがある。一方でミッションに80W-120などの硬いオイルを入れると、ギアの入りが悪くなる。
共用するなら、両者の粘度が近い必要もあるのだ。
JB64/JB74ジムニー指定ミッションオイル
JB64/JB74ジムニーの指定オイルは下表の通り。
JB64ジムニー / JB74ジムニーシエラ共通 | ||||
ミッションオイル | グレード | スズキ4輪ギアオイル75Wシンセティック | ||
規定量 | 1.2L | |||
トランスファーオイル | グレード | スズキ4輪ギアオイル75Wシンセティック | ||
規定量 | 1.21L | |||
デフオイル | グレード | スズキ4輪スーパーギアオイル75W-85シンセティック | ||
規定量 | フロント | 1.6L | ||
リア | 1.3L |
ちなみに、ミッションの指定オイルである「スズキ4輪ギアオイル75Wシンセティック」にはGLグレードは表示されていないが、デフオイルとは別のオイルを指定されていることからGL-4相当と思われる。デフの指定オイルである「スズキ4輪スーパーギアオイル75W-85シンセティック」もGLグレードの表記はないが、4Lモードで大トルクかかるジムニーのデフには、GL-5に準ずる性能のオイルが使われていると推測する(JB23ではGL-5が指定されている)。
(参考:JB23指定オイル粘度)
また、ミッションやトランスファーオイルの「スズキ4輪ギアオイル75Wシンセティック」は「スズキ4輪スーパーギアオイル75W-85シンセティック」より粘度が低いし、極圧剤の含有量の少ないGL-4グレートと思われるので(缶には表記がない)、余ったミッションオルをデフに使うのはやめよう。
同じく、スズキ4輪スーパーギアオイルははデフ用と書いてあるので、ミッションオイルへの使用はやめておくのが無難。真鍮製のシンクロへの耐腐食性が担保されていない可能性があるからだ。
おすすめミッションオイル
スズキ純正「スズキ4輪ギアオイル75Wシンセティック」
安くミッションオイルを交換したいなら、純正オイルがおすすめ。
純正オイルのメリットはメーカーによってオイル性能が担保されていること。変な激安オイルを使ってトラブっても、「オイルが悪い」と保証の対象外になってしまう可能性もあるので、純正オイルが最低ラインと思った方が良いだろう。
低コストで車の性能を引き出すとともに、故障などのトラブルのリスクもカバーしたいのであれば、純正オイルをを推奨交換距離を守って交換していくことが1番。
高性能ギアオイル NUTEC ZZ-31 75W-85
オイルにさらなる性能を求めるなら、各オイルメーカーが販売している高性能ギアオイルがおすすめ。
48RはNUTECが好きなので、ギアオイルもNUTECをチョイス。
このオイル、そこそこお値段は高いものの、レース用ギアオイル(NUTECのNCシリーズ。こちらは超高価)と同じベースオイルを使用しており、極圧性能が高いだけでなく低フリクションでロングライフ。お値段以上の高性能オイルなのだ。
JB74のミッションオイルとして使ったら、引っかかり感のあった1速とRが吸い込まれるようにギアが入るようになったことから、もうずっとコレでいく!と決めたオイルだ。
ミッションオイル交換方法
車高の高いジムニーはジャッキアップしなくても、なんとかギリギリ作業可能だった(超狭いが)。
また、ミッションオイルのフィラーはかなり狭いところにあるので、オイル補充は大変で油まみれ(そのため画像少なめ)。
自宅にガレージリフトがあると楽なんだけどねぇ(遠い目)。
必要工具
・ブレーカーバーなど、ハンドルの長い工具
・10mmドランプラグソケット
・シールテープ or 液体ガスケット
・灯油ポンプ or サクションガン
・オイル受け皿
・廃油パック
・パーツクリーナー
・ウェス
ミッションのドレンプラグやフィラープラグはは10mmスクエア形状。9.5SQの■部で回す人もいるが、10mmスクエアより微妙に小さいので舐める可能性がある(特に数年未交換だと固着している可能性もある)。確実に作業するなら、10mmスクエアのドランプラグソケットを使おう。
また、ジムニーのミッションオイルのフィラーは狭い位置にあるので、背の高いドレンプラグソケットは入らない。その点KTCのドレンプラグソケットは背が低く設計されているので、JB64/JB74には打って付けの工具である。
オイルの注入は灯油ポンプがおすすめ。サクションガンも持っているが、何度も繰り返し注入する必要があるので、灯油ポンプのほうが楽である。
手順①フィラープラグを緩める
フィラープラグから緩めるのが鉄則!
ドレンプラグから緩めてオイルを排出して、もしフィラープラグが緩められなかったらオイルを入れられず、走行不能になってしまうからだ。
10mmドレンプラグソケットでフィラープラグを取り外す。
手順②ドレンプラグを外してオイルを排出する
ミッション底面のドレンプラグを取り外して、オイルを排出する。
おおう、出てきたオイルは汚い。写真では見づらいのだが、キラキラした金属片らしきものも見える。
整備マニュアル上ではミッションオイルは通常条件では無交換となっていたが、ちょっと不安になる汚れっぷりだ(ガクブル)。
ドレンプラグのマグネットもこの通り鉄粉べったり。
手順③ドレンプラグの取り付け
オイルを注入するため、ドレンプラグから取り付ける
まずはドランプラグをクリーニングして、シールテープを巻く。
ミッションのドランプラグはいわゆるテーパーネジになっていて、ネジ頭がなくネジの座面で銅ワッシャーなどでシールできないので、ネジ山でシールする必要がある。
今回はシールテープを使用(液体ガスケットでもOK)。
シールテープの巻き方
・先端1山はシールテープを巻かない(ミッション内部にシールテープ混入防止)
・巻く方向はネジを頭から見て反時計回り(締め込むときにシール末端がめくれない方向)
・シールテープは2〜3重巻きが理想
ドランプラグの締め付けトルクは23Nmだが、シールテープや液体パッキンをつけた状態では適切なトルク管理ができない。シール材でネジの摩擦が減ってネジが締め込み過ぎてしまう場合もあるので、トルク管理だけでなく初期状態のネジの締め込み位置も目安にしよう。
48Rはトルクレンチのクリック音がならなくても、上画像のように2山くらい残した状態に達したら締め付けを止めるようにしている。
(ネット上ではミッションケースを締め込み過ぎで割った人もいるので注意)
手順④オイルの注入
必要オイル量は前述しているが、特に測って入れる必要はない。車体を水平にして、フィラーからオイルが溢れるまで入れればOKだ。
注入が完了したらフィラーのテーパーネジもドレンと同じ要領で締め込む。
最後にパーツクリーナーとウエスでオイルをミッションケースに付着したオイルをキレイに拭き取ろう。
ミッションケースが汚れていると、オイル漏れか汚れか判別できなくなってしまうので、清掃は整備の基本だ。
ミッションオイル交換まとめ
車高の高いジムニーはジャッキアップせずともなんとか潜り込んでの作業も可能だったものの、やはり狭いスペースでの作業はまあまあ大変だった(デフオイルだと潜り込む必要がないのでもっと簡単なのだが)。
しかしながら、新車の頃から気になっていた1速とRの引っかかり感が改善されてたうえ、低フリクションな高性能ギアオイルに交換したので気持ち良く乗ることができます。
やって良かった〜
他にも「JB74ジムニーシエラ(☜クリック)」カテゴリーで様々なジムニーに関する記事書いてます。よろしければ、そちらの記事もどうぞ。