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ハイエースの2WDはなぜ滑る?雨や雪道でグリップが弱い理由を物理で解説してみる

ハイエースの2WDに乗っていると空荷状態では雪道はおろか、雨の日でも結構滑るというのは有名な話である。また、2WDは悪路の走破性能もすこぶる悪く日本中のハイエース乗りは困っていることでしょう。

雨の日は平坦な交差点からの発進でもリアがホイルスピンしてヒヤッとするし、雪なんて降ろうものなら、ちょっとの坂道でも登れなくなる。

 

空荷だと後輪が滑りやすいことや、4WDのほうが4つのタイヤで駆動するので滑りにくいというのは感覚的に理解しやすいことと思うが、あなたはそれを理論的に説明できますか?

今回は知らなくてもどうでも良いウンチク話、ハイエースの2WDが異様に滑る理由を、車両の運動力学の専門家の48R(本職)が物理的に解説する。

高校物理のニュートンの運動力学と摩擦係数の知識さえあれば、理解できる内容です。

注:内容を簡潔にするため、あえて厳密にはやってません

 

 

2WDが滑る理由を物理で解説

 

タイヤが駆動力を地面に伝えて加速する

まずは基本的なところから。

ハイエース2WDの加速時の力学関係である。

ハイエース2WDのエンジンがタイヤを介して駆動力Fを地面に伝達するとき、加速度aと駆動力Fの関係はハイエースの質量をmとすると運動力学で下式の関係にある。

F = m x a

力学で最初に習う式。質量と加速度の積は、力に等しいというニュートンの運動力学だ。

 

次にハイエースの4WDが同じ加速度aで加速する場合はこうである(駆動力配分は50:50とする。簡単のため重量配分も前後で50:50とする)。

F/2 + F/2 = F = m x a

同じaという加速度を得るために必要な駆動力Fは前後輪で分担できるため、後輪にかかる駆動力は2WDの半分のF/2になり、代わりに前輪がF/2を負担することにより合力で同じFとなっている。

 

つまり、4WDはタイヤ1本あたりの駆動力を2WDの半分にすることができるのだ(重要)。

 

 

スリップと関係が深い摩擦係数の話

次に2WDが滑る理由を説明する前に、摩擦係数も復習をする。

摩擦力と垂直荷重W(=mg)の関係は摩擦係数μを用いて以下の数式で表される。

F摩擦力 = μ x W = μ x mg

ポイントは、摩擦係数μが大きいほど、または、荷重W(=mg)が大きいほど摩擦力が大きくなる。

引っ張る力がF摩擦力を超えると物体は滑り始める。

 

2WDが滑りやすいのは、摩擦限界を超えやすいから

はい、では本題の2WDが滑りやすい理由を力学的に説明する。

前々節で質量mのハイエースが加速度aで加速するとき、

ポイント

2WDは後輪に駆動力F

4WDは後輪に駆動力F/2、前輪に駆動力F/2

ということを書いた。

 

これを摩擦係数の話とからめて解説すると、タイヤの最大摩擦力をF摩擦力とすると、滑る滑らないの条件は下記となる。

駆動力F < F摩擦力 ⇨ 滑らない

駆動力F > F摩擦力 ⇨ 滑る

このように、駆動力FがF摩擦力を超えれば滑るし、その逆なら滑らない。

つまり、質量mと加速度aの積がF摩擦力と等しくなる時が滑りの限界点である。

F摩擦力  = m x a(滑りの限界点)

 

これに2WDと4WDの違いで解説した、4WDは前後で駆動力を分担できるので、タイヤ1本あたりの駆動力を2WDの半分にできることを代入すると

2WDと4WDの滑る条件

2WD : 駆動力F = m x a > F摩擦力

4WD : 駆動力F/2 = (m x a) / 2> F摩擦力

4WDの場合、タイヤ1本あたりの駆動力が2WDの半分なので、F摩擦力を超えるまでに2WDの2倍の駆動力Fをかけられる(2倍の加速2aまで滑らない)のだ。

つまり、ウェット路面や雪道など、非常に滑りやすい路面においてでも4WDは2倍の駆動をかけられる。

これが4WD滑らない理由だ。

 

 

坂道で滑る理由も力学も考える

上り坂は平地以上にタイヤが空転しやすく2WDは坂を登らない。

これも力学的に運動方程式と摩擦力で考えてみよう。

坂道の勾配角度をθとして、重力定数gとタイヤの摩擦力μを用いて考える。

 

そうすると運動方程式は、ハイエースが坂の下方向へ滑り落ちようとする力をmg sinθで表せるので、ここでも駆動力をFとすると

F - mgsinθ = m x a

また、摩擦係数は次のようになる

F摩擦力 = μ x mgcosθ

 

滑る条件は、平地の場合は下式だったのに対し、

m x a > F摩擦力

 

坂道の場合は次のようになる。

m x a  +mgsinθ > F摩擦力

となり、坂道下向きにかかるmgsinθ分だけ摩擦力を食われてしまっているので、小さな加速度aでも滑ってしまうことになる(F摩擦力を超えやすい)。

また、坂が急になりmgsinθだけでF摩擦力を超えてしまうと、ハイエースは坂から滑り落ちる状態になる。

 

もう一点坂道で滑りやすい理由として、坂道ではF摩擦力自体も小さくなっている。

摩擦力は摩擦係数μと路面への荷重の積だが、上図の通り、路面垂直方向への荷重がconθ分小さくなっているのだ。

F摩擦力 = μ x mgcosθ

となるため、平地に比べcosθ分だけF摩擦力が小さくなっている。

cosθは坂道の角度が大きくなるほど値が小さくなるので、坂道が急なほどタイヤが得られる摩擦力は小さくなってしまう。

 

まとめると

坂道で滑る理由

・坂道ではハイエースが坂道下方向へ滑り落ちようとする力mgsinθだけ摩擦力を食われるので、平地より滑りやすくなる

・坂道では路面垂直方向の荷重が減るので、タイヤから得られる摩擦力も小さくなる

という理由で、坂道では平地以上にタイヤが空転するのだ(登れない)。

 

 

 

前後荷重からハイエースの2WDがめちゃくちゃ滑る理由を物理で解説

ここまでは簡単のため、ハイエースの前後の荷重分担を無視して書いてきたが、ハイエース2WDの滑りやすさを語る上でハイエース空荷状態の前後荷重の偏りは外せない。

 

スーパーGL 2WDを例にしてみよう。

車検証に記載されている重量は下記である。

車両重量:1780kg
総重量 :2905kg(5名乗車)
前前軸重:1050kg
後後軸重: 730kg

 

大人二人でスキーに行くとして、荷物の重さを50kg程度とする。

前輪にかかる荷重は

1050kg + 150kg(大人2人) = 1200kg

 

後輪にかかる荷重は

730kg + 50kg(荷物) = 780kg

 

大まかにいうと、

前輪荷重 : 後輪荷重 = 2 : 1 

という状態であり、後輪には前輪の半分しか荷重がかかっていないのだ。

 

ここで摩擦係数の式を思い出して欲しい。

F摩擦力 = μ x W = μ x mg

これを前輪と後輪に分けて書く。

 

F前輪摩擦力 = μ x mg x 2/3

F後輪摩擦力 = μ x mg x 1/3

摩擦力は摩擦係数μと荷重に比例する。

μは前後タイヤで変わらないので、荷重分後輪の摩擦力が少ない。

実に後輪の摩擦力は前輪の摩擦力の半分しかないのだ。

 

 

ハイエースの2WDがめちゃくちゃ滑りやすい理由

・駆動輪である後輪には前輪の半分しか荷重がかかっておらず、得られる摩擦力が前輪の半分しかない

・2WDは後輪だけで駆動力Fを負担するので、簡単に摩擦限界を超える

以上の理由で、積載の少ないハイエースの2WDは異常に滑るのである。

(もしハイエースがFF(前輪駆動)なら駆動輪に荷重がかかるので、もっと走れたでしょう)

 

 

 

実は下り坂のブレーキは4WDが不利

ブレーキに関しては、四輪全てにブレーキがついているので、2WDや4WDといった違いはほとんど現れない(エンブレは除く)。

つまり、ブレーキング距離は運動エネルギーに比例して伸びていくので、車重が重い4WDのほうが不利になるのだ。

参考にJAFで行われた2WDと4WDの雪道での比較テストのリンクを貼っておく。

雪道で4WDは上り坂に強くても下り坂では止まりづらい! 2WDと登坂・ブレーキ性能を比較

4WDだからと過信せず、むしろ下り坂では不利になることを意識して安全に運転しよう(重要)。

 

 

2WDハイエースのグリップアップ方法

有名なアレ、荷室に「砂袋」である。

48Rは雪無し県で育ったので「ホンマかいな、都市伝説ちゃうんかい?」と思っていたが、雪国では本当に上り坂対策として使われている。

ここまでの無駄知識の長文をまともに読んで下さった読者ならお気づきだろうが、雪道の坂道では後ろから押すより荷室に乗っかって後輪荷重を増して摩擦力を稼いだほうが有利。

押し上げも、短い距離なら効果的だが、ずっと押すんかい!って状況もあるわけで、ハイエースなら荷室の後輪上にとにかく砂袋でも米袋を積んで摩擦力を稼ごう。

 

ちなみに、現実的には捨てられない砂袋よりウォーターバッグのほうが良いと思われる。

 

また、車重が増すので下り坂のブレーキング距離は伸びてしまうので注意が必要だ。

 

 

さらにオープンデフにより悪路に弱い

LSDがついていなデフは片輪が滑るともう片輪に駆動力が伝わらなくなってしまう(このおかげでカーブで左右のタイヤの転がり周長差を吸収してスムーズに走れる)。

さて、ここまでの説明でハイエースの駆動輪である後輪は荷重が少ないと解説した。さらにオープンデフなので、雪道ではちょっとスタックするだけで

片輪空転→もう片輪に駆動力が伝わらない

で、もう進まない。

こうなった時は、例えば右後輪が滑るならその上に人なり荷物なりを寄せて荷重を増やしたり、バックが可能ならちょっと下がってから助走をつけて乗り切ったりしよう。

 

ちなみに、LSDをつけると多少走破性は改善するようだが、いかんせん後輪荷重の少なさから大幅な改善は見込めないもよう。

ハイエース2WD + LSDの効果はこちらのブログが面白い。

OS技研 スーパーロック ネオ その6

 

 

まとめ

以上、日常では「4WDは滑りにくい」と覚えておくだけ十分だが、無駄に物理的に滑る滑らないの力学を掘り下げた記事でした。

要は、2WDはもともと滑りやすいうえ、ハイエースは駆動輪に荷重が少ないのでめちゃくちゃ不利なのです。

 

お役に立てないかもしれませんが、雑学にはなったでしょうか(笑)

理想的な荷重配分のFR車ならいざ知らず、ハイエースの2WDはその駆動方式と後輪荷重の少なさでとにかく滑りやすい。

少しでも雪道を走るなら4WDのほうが安心です。

 

ハイエース4WDの雪山での使い勝手は別の記事でまとめてます。

ハイエースのスキースノーボード用途の使い勝手について 〜車中泊や雪道走破性など〜

200系ハイエース4WDをスキースノーボード用途に使いはじめて10シーズン突入の48Rが、ハイエースってスキースノーボードにどうなの?ってよく聞かれる疑問について書いてみる。 結論を先に述べると、最高 ...

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